京都からすま和田クリニック 和田洋巳の相談室

がん専門医の和田洋巳が40年近くのがん治療の経験で感じた「がんが住みにくい体づくり」について書いていきます。そのほか興味深いがんの症例やがんを防ぐ基礎知識など。

講座:こころとからだ〜がんは自分が作ったもの〜10

前回は、人のこころと身体を捉える上での考え方について、少し詳しくご説明しました。

今回は、症例のご紹介をしたいと思います。

この症例は、昨年末にご逝去された患者さんですが、初診は約4年前で、1999年に甲状腺がんの摘出手術を行い、その後、多発肺転移となり、当クリニックに来ました。この患者さんも食事療法を中心とした治療で、その後、病状は回復し、元気に過ごしていました。

この患者さんは、当クリニックに来た頃からすでにホスピスを勧められていましたが、治療を受けた結果、3年間元気に過ごして、最終的には、ホスピスで少しの期間を過ごした後、ご逝去されました。
この患者さんからは、亡くなる5日前に手紙をいただきましたが、死期を悟ったかのような内容で穏やかな気持ちが伝わりました。

このように、人生の時間を苦しんで終えるのではなく、元気で前向きに過ごしながら天命を全うできることは、自身にとっても家族にとってもとても重要なことと思います。
その意味でも、治療に向かう姿勢や、前向きな気持ちは非常に重要で、これは患者さん自身もそうですが、家族の皆様もそのような心持ちで支えていっていただくことが肝要なのだと思います。

 次回は、これまでにお見せしたような、通常では治癒は難しいと思われる状態から回復した事例に共通する要因をまとめたケリーターナー博士の書籍をご紹介します。

講座:こころとからだ〜がんは自分が作ったもの〜9

前回は、治療に対する積極的な姿勢と、癌の指標との関係について、ご紹介しました。
今回は、人のこころと身体を捉える上での考え方について、もう少し詳しくご説明します。


下の本は、ブルース。リプトンというアメリカの細胞生物学者の「思考のパワー」という著書です。
右の図は、パラダイム(ものの見方・考え方)の歴史的な変遷を示していますが、こちらは医療においても非常に重要な図であると言えます。



紀元前から西暦1700〜1800年頃までは、人々は、精神論的な思考・見方をしていました。宗教による意思統率はまさに精神論的なパラダイムと言えます。一方で、1776年の自然神論以降、1859年のダーウィンによる進化論のように、物質論的な思考・見方が強くなっていきます。最近でもヒトゲノム・プロジェクトなどは人を物質的な観点から定義づけてしまおうという考えのもとに遂行されました。
これらの結果、科学技術も飛躍的に発展し、急性の疾患や感染症などによる被害は劇的に減少し、我々は恩恵を受けたわけですが、何度も当ブログでも申していますように、癌や糖尿病といった慢性疾患は、何か一つの薬や、手術をすれば完治するというものではありません。そこで近年では、この物質論と精神論をバランスよく捉えることにより、からだとこころをコントロールしていこうという全体論(ホリズム)へと考え方・見方がシフトしてきているのだと思われます。



自分や家族、友人が病気になれば、我々は大きなショックを受けます。ですが、ショックを受けたとき、思い悩み、投げやりになるのではなく、少し広い視点で自分を捉え直し、今、自分は何をすればよいのか、自分は家族・友人に対して何ができるのか、を考えてみることが非常に重要と言えます。
その気持ち・考え方が、自然と治療に向かう姿勢になるのだと思いますし、そのお手伝いをしていきたいと私は日頃思っています。

次回は、症例のご紹介をしたいと思います。

講座:こころとからだ〜がんは自分が作ったもの〜8

前回は、治療においてこころの働きが重要であることを示す根拠を研究の面から紹介しました。
今回は症例をもとに、治療に対する積極的な姿勢が、癌の指標と関係していることについて、ご紹介していきます。

この患者さんは右腎臓癌で、肺転移を指摘され、右腎摘出の術後に来院した方です。この方は癌の指標の推移が食事療法への積極性と非常に良く関係しています。



下の図のように、初診時には、尿中のナトリウム・カリウム比が高い状態でしたが、食事療法をがんばっていた2014年8月では、値が下がり、CRPも低くなっています。その後、2014年10月になって少し食事療法をサボり気味になると、CRPが急激に上昇し、またその後、頑張り始めた結果、値が下がりました。

このように、治療に対する積極的な姿勢が重要であること、また食事の内容が癌の指標に非常に良く連動していることがわかるかと思います。
下の引用は、筑波大学名誉教授の村上和雄先生の「スイッチ・オンの生き方」という本からですが、遺伝子や脳なども含め、身体の働きをよくするためには明るく前向きに積極的にものごとに取り組む姿勢が大事であるということを示しています。

下記は、それをよく示す実験結果です。前立腺癌の患者さん93名において、食事と生活スタイルを積極的なものへと変えた場合、前立腺癌の指標であるPSAの値やLNCaP細胞の成長を抑制することが示されています。特にLNCaP細胞の成長については、通常の生活群よりも約8倍抑制できており、劇的な効果が出ていると言えます。



このように生活習慣や食事を変え、それを継続することはとても根気のいることです。ゆえに積極的な姿勢・こころ持ちが必要となるわけですが、前回と今回紹介したような事実は、きちんとこころを落ち着けて治療に取り組むことで身体は正直に答えてくれることを教えてくれます。
こうした考え方は、癌ができたら叩けば良い、というような、やや物質論的な思考に囚われていた医療の考え方にパラダイムシフトを起こすものと私は考えています。
次回は、人のこころと身体を捉える上での考え方について、もう少し詳しくご説明したいと思います。

講座:こころとからだ〜がんは自分が作ったもの〜7

前回は、治療では、きちんと現状を見つめようとすること、自分は癌を克服して生きるのだと強く思うこと、という積極的でありつつも、楽観的な精神状態が重要であるということを症例の紹介からお伝えしました。

今回から2回に分けて、治療においてこころの働きが重要であることを示す根拠を研究の面から紹介していきます。
まず以下の論文ですが、これはいわゆる「瞑想」を取り入れることが癌治療に効果があることを示すデータです。
この論文では、86名の乳癌患者を2群に分け、1群は1年間毎週「自己催眠術」を取り入れる、もう1群は取り入れない、という実験を行いました。結果として、10年後には86名中、83名は死亡に至りましたが、「自己催眠術」を取り入れた群は、中間生存率(半分の人が生きている期間)が37ヶ月であり、対照群の10ヶ月よりも大幅に生存期間が長いということがわかりました。

「自己催眠術」というと、怪しげなものに聞こえはしますが、要はこころの持ち方のことで、このような自己暗示は、脳の自律神経系や視床下部・下垂体軸の機能と密接に関わっています。
特に視床下部・下垂体軸の活動に大きく関わるモノとして青斑核という部分があります。


青斑核は、いわゆるストレスホルモンの一つであるノルアドレナリンの分泌することで、交感神経系の活性に非常に重要な役割を果たしており、ストレスを非常に強く感じることが長い期間続いたりした場合、結果的に鬱病パニック障害、不安といった症状を引き起こす引き金にもなります。
例えば大きなストレスがかかると、青斑核はノルアドレナリンを分泌することで、視床下部・下垂体軸を活性化します。この活性化は交感神経の活動を強め、リラックスしている状態には優位に活動する副交感神経の活動を抑制します。

私が、これまで見てきた多くの患者さんも、実際に癌に罹患する少し前(数ヶ月から数年というスパンですが)に、精神的に大きなストレスを受けていることが多いです。このストレスが癌のすべての原因というわけではありませんが、少なからず一つの要因として関わっている可能性は否定できないと思います。

青斑核は、鬱病精神疾患との関わりで良く取り扱われますが、癌においても同様で、アドレナリンやコルチゾルといったストレスホルモンの分泌が多くなると、青斑核が活性化し、交感神経が優位に働き、免疫機能の低下を引き起こし、そして結果として癌細胞を活性化させます。

これは余談ですが、ラットでも人と同様に、ストレス耐性のあるなしが癌の治癒と関係していることを示すデータがあります。
下のデータは発癌するように細胞株を植えられた特殊なラットを対象として、電気ショックを与え、電気ショックを乗り越えたラットと気絶してしまったラットに分け、癌の排除率を見たものです。
結果として、電気ショックを乗り越えたラットは、63%が癌を排除できましたが、乗り越えられなかったラットは23%しか排除できませんでした。
ラットの結果なので、人と同じとは言えませんが、ラットでもストレスに対抗できるか否かが癌の克服に重要だということを示しています。

このように研究結果を見ていくと、こころの作用は、癌においても軽視することのできない要素であると私は思っています。
次回は症例をもとに、精神的なストレスが、癌の指標とどのように関係しているか、ご紹介していきます。

講座:こころとからだ〜がんは自分が作ったもの〜6

前回は、大腸癌の方の症例を紹介しましたが、癌と糖尿病との関係が非常に深いということがよくわかる症例だったのではないでしょうか?

また、糖尿病も含め、治療には根気が要るものです。そういう意味でも、この方たちの治療へのこころの持ちようが重要そうであるということもおわかりいただけるものと思います。

では、このような方たちのこころの持ち方はいったいどのようなものなのでしょうか?
 下の図に示していますが、ただ楽観的なだけでは病巣を放置してしまいますし、積極的でも悲観的では日々の生活に支障を来します。
 ここで言いたいのは、楽観的でありつつも治療に積極的であるような精神状態が必要だと言うことです。


それは、ある意味、モノは言い様、ではあるのですが、「末期癌になったらほとんどは数年以内で死んでしまう」と捉えるのではなく、「末期癌でも全治して10年以上生きている人もいる」と捉えるような姿勢です。


実際に、下の図の症例の方も、45歳で乳癌が肺転移した方ですが、ご自身の生活習慣を見直し、食事療法を取り入れることで、少量の抗癌剤でも効果が出て、副作用無く癌細胞が縮小し始めました。


この患者さんは、その後、初診から約2年で病巣はきれいになり、抗癌剤を利用する生活からもとの日常生活に戻られました。

このように治療では、きちんと現状を見つめようとすること、自分は癌を克服して生きるのだと強く思うこと、という積極的でありつつも、楽観的な精神状態が重要なのだと思います。

次回は、治療においてこころの働きが重要であることを示す研究例を紹介します。

講座:こころとからだ〜がんは自分が作ったもの〜5

前回は、治療に対して精一杯向き合うことができるためにも心の持ち方が大事であることをお伝えしました。
今回は少し症例を紹介したいと思います。

癌と食事が大いに関係があることは、ブログを読んでいただいている読者のみなさまは良くご理解いただいていることと思いますが、それを良く示すこととして糖尿病と癌の関係があります。以下の患者さんは大腸癌を患って来院されましたが、以前より糖尿病も患っていました。

過食・甘い物・乳製品などは取り過ぎた結果として、mTOR axisと呼ばれる癌の増殖因子を活性化させてしまうことがわかっています。

非常に興味深いこととして、糖尿病の治療薬として用いられるメトフォルミンという薬は、このmTORの阻害薬として使われています。
メトフォルミンは、糖尿病罹患者にとってリスクとなる高血糖の状態を引き起こす糖新生を抑制するために、肝臓においてAMPKを活性化させる働きを持っていますが、それは同時に癌細胞におけるAMPKの活性化にも働きます。この活性化は、癌細胞の増殖因子であるmTORの働きを抑えることにつながり、癌細胞の増殖を抑えることにもつながるのです。

実際にこの患者さんは糖尿病の治療薬をメトフォルミンに変え、食事指導をすることで、糖尿病が改善されていき、それに伴って癌細胞もだんだんと小さくなっていきました。治療開始から約1年半が経ちますが、非常に元気に日常生活を送っています。

このように改善されていったのは、この患者さんが現状に悲観することなく自分の意思を持って治療を続けていったことにつきます。

次回はまた別の症例を紹介したいと思います。

講座:こころとからだ〜がんは自分が作ったもの〜4

前回まで症例を紹介させていただき、癌の治療には心の働きを無視することはできない、ということをお伝えしました。
今回はその心の働きについて、お話していきます。

下の図は、アメリカの細胞生物学者のブルース・リプトン博士の著書です。彼は、遺伝子の働きは信念と深く関係しており、信念により変えることができると言っています。

人間の心では、私たちの見えないところでエネルギーが干渉しあっています。つまり心とはエネルギーの重なりであるといえます。

下図は瞑想で骨肉腫を治したというイワン・ゴウラーという方の著書です。彼は、余命3週間と言われた状態から、瞑想を取り入れることで、治癒に成功し、30年以上生存しているそうです。

上記だけを見るとそのメカニズムはよくわからないと思います。下図を見てください。彼が言っていることは瞑想そのものの価値を提案しているのではなく、癌に対する治療への心持ちを提案しています。癌になってしまったことに混乱するのではなく、心を落ち着けて、今、自分が何をすべきかを冷静に考えることを提案しているわけです。

下図は受動的瞑想法についての図です。ご参考にしてください。



繰り返しになりますが、このような心の状態を持つことで、治療に対して精一杯向き合うことができるようになることが非常に重要になってくるということになります。

次回は症例紹介に戻りますが、また追々、心の話はしていきます。