京都からすま和田クリニック 和田洋巳の相談室

がん専門医の和田洋巳が40年近くのがん治療の経験で感じた「がんが住みにくい体づくり」について書いていきます。そのほか興味深いがんの症例やがんを防ぐ基礎知識など。

講座:がんに負けないからだをつくる〜がん治療のパラダイムシフト〜1

今回から新講座をはじめていきたいと思います。
この講座は、2015年4月4日~12日に、京都駅周辺で開催された市民公開講座「医総会week 2015」にて私がお話しさせて頂いた講演内容になります。

前回の講座では、主にこころに注目して、こころとからだの関係性からがん治療について説明をしてきましたが、今回の講座ではこれまでの講座全体の総論にあたるお話しをしていきたいと思います。

まず、おさらいとして、現在のがん治療の特徴です。

現在のがん治療は、がんに見られる顕著な10の特徴を抑え込むための薬を開発し、それらでがんを抑制しようとしています。
これは、部分的には間違っていませんが、がんを持つ身体を診られていません。つまり、木を見て森を見ず、の状態になっていると言えるように思います。

これは何度も当ブログで話していることですが、とても重要なので繰り返します。
がんとは、自分の身体にできたものです。つまりがんをたたくということは、自分の身体をたたくということになります。
がんを治めるには、がんが棲みにくい身体を作ることが必要です。
がんが棲みにくい身体は適切な食生活・生活と、副作用の少ない治療から作ることができます。
つまり、がん治療は、バクテリア寄生虫治療とは違うということです。




これもおさらいですが、がんの特徴的な性質として、特殊な解糖メカニズムがあります。
通常、人の細胞、たとえば筋肉は、ミトコンドリアを有しているため、酸素が十分にある状態では、エネルギー源である糖分からたくさんのエネルギー(ATP)を取り出す代謝を行うことができます。
ところががん細胞は特殊な代謝になっていて、酸素が十分にあるときでも、ないときと同じ代謝を行います。酸素が十分に細胞に行き届かないとき(たとえば100メートル走を走るとき)、細胞は糖分から直接エネルギーを取り出しますが、これで得られるエネルギーは非常に少なく、さらに乳酸を生成してしまいます。
乳酸がたまると細胞内が酸性に偏ってしまうため、がんはこの酸をナトリウムと引き換えに吐き出すナトリウムプロトン(水素イオン)ポンプという仕組みも持っています。これらの特徴はがんが周りの細胞へと転移し、増殖していくメカニズムの基本になっています。




最近わかってきたことは、この特殊な代謝メカニズムが、がん細胞の周囲微細環境を酸性にし、それによって、がん細胞を増殖・発生させる上で大きな影響を及ぼしているということです。
これは、がん細胞の代謝は、がんの成長と生存をサポートするための仕組みであるとも言い換えられます。

このようながんを取り巻く環境に対して、食事治療やこころの持ちようが大事になってくるわけですが、
次回は、果たしてがんを治療する上でどのような要素が必要なのかについてお話していきます。