京都からすま和田クリニック 和田洋巳の相談室

がん専門医の和田洋巳が40年近くのがん治療の経験で感じた「がんが住みにくい体づくり」について書いていきます。そのほか興味深いがんの症例やがんを防ぐ基礎知識など。

食事療法によって腫瘍が小さくなった進行性肺がんの男性(59歳)

甲田療法という食事療法によって進行性のがんを縮小させたYさんについてお話ししましょう。
甲田療法は、飢餓療法の一種で、一時的に栄養状態を落とすことでがん細胞の成長を抑えるという治療法です。

Yさんは、50歳でがんが発見された当時は、5年生存率が10%未満というステージ3Bにまで進行しておリ、手術することが不可能な状況でした。現在このYさんはすでに10年間生存しておリ、経営者として多忙な生活を送っています。ステージ3Bの肺がんの患者さんとしては奇跡的な回復だといえるでしょう。

がんが発見される前のYさんの生活習慣は、ヘビースモーカーで酒と肉が大好物という、がんになる典型的なライフスタイルでした。

がん治療をはじめた当初は、大学病院で抗がん剤治療や放射線療法などのいわゆるがん標準治療を受けていました。

がん発見当時は腫瘍マーカー(SLX)の値が55.5でした。この数値は、健常者であれば37程度が上限です。SLX55.5という数字は進行がんにしては比較的低いといえるものの、抗がん剤などを投与されても数値は下がらず、ひどい体力低下に苦しんでいたそうです。

その後、断食指導で有名な大阪の甲田医院に行き、玄米生菜食の指導を受けました。この甲田式玄米生菜食を実践したところ、SLXの数値は44まで低下したのです。


Yさんが実践した玄米生菜食はこのようなものです。

  • 米粉 70グラムx2(昼夕食)
  • キャベツ、ブロッコリー、青シソ、ホウレンソウ、菊菜、ミツバ、水菜などから5種類以上の緑色の野菜をフードプロセッサーでどろどろにすり潰したもの 250グラムx2(昼夕食)
  • 大根おろし 100グラムx2(昼夕食)
  • ニンジンおろし 120グラムx2(昼夕食)
  • 長いもおろし 30グラムx2(昼夕食)
  • 食塩(調味料は塩だけ) 5グラムx2(昼夕食)
  • 豆腐 半丁x2(昼夕食)
  • レモン 2分の1個から4分の1個

 (朝は絶食、水や柿茶を1.8リットル程度)


この甲田療法は食事の楽しみを諦めなければならないので、かなり実践が難しい治療法です。現在Yさんは、他の患者さんにこの食事療法の指導を行っていますが、食べにくさに音を上げる人も多いそうです。

しかしYさんはこれを実践し、がんをおとなしくさせることに一度は成功しました。しかし、肺がんステージ3Bの平均余命といわれる2、3年をクリアした段階で気を許し、再び肉食と飲酒をはじめてしまったのです。

すると間もなく、リンパ節や胸部へのがんの転移が発見されました。この時点で腫瘍マーカーのSLX値は59.4まで急上昇していました。

そこで抗がん剤治療や放射線療法を併用しながら甲田式の食事療法を続けたところ、病状はふたたび落ち着き、体調が安定しました。


その後、最初のがん発見から5年経った段階で、玄米生菜食によって病状が落ち着いていたので再び肉を食べ始めました。するとまたリンパ節に転移が見つかったのです。この転移が発見された後は、絶対に肉は食べず、菜食を貫いているといいます。


Yさんは常に甲田式の食事療法を行っているわけではなく、体調が悪くなったときに二週間程度の期間にわたって集中的な玄米生菜食を年に数回行うそうです。すると腫瘍マーカーの数値が下がり、体が楽になるということです。

最近は上記のメニューをやや省略し、玄米粉やニンジンおろし、ダイコンおろし、緑色の野菜をすりつぶしたもの、食塩だけを食べているといいます。

私のクリニックを訪れたのは、二度目の再発の後です。私のクリニックでの治療としては、このまま必要に応じて甲田式食事療法を続けつつ、まずは雲南イチイの木のお茶を飲んでもらうことにしました。同時にナベルビンやジェムザールという抗がん剤も少量投与し続けました。

雲南イチイの木のお茶には抗がん剤に含まれる成分が入っているからです。このお茶を飲み始めた当初は腫瘍マーカーの数値は下がってきましたが、その後上昇が始まりました。そこで、抗がん剤の成分を含んでいるニチニチソウの葉を生食してもらうことにしました。

ニチニチソウを食べ始めてからは、44ほどあったSLXの値は33くらいまで下がってきました。かなりがん腫瘍は小さくなったといってもいいでしょう。

ステージ3Bの肺がんの場合、抗がん剤治療などによる5年後の生存率は0から5%程度なので、Yさんのケースは極めて稀だといえます。甲田式食事療法や雲南イチイのお茶、ニチニチソウなどを活用することで、免疫力や抗酸化力を高めていったことがこのような結果を導いたと考えられます。