京都からすま和田クリニック 和田洋巳の相談室

がん専門医の和田洋巳が40年近くのがん治療の経験で感じた「がんが住みにくい体づくり」について書いていきます。そのほか興味深いがんの症例やがんを防ぐ基礎知識など。

がんはどうしてできるのか

がんを理解する

私は専門医として、約40年がんという病気をみてきました。

今感じていることは、がんを予防する、そしてがんを治療するためには、
がんを理解することが大切だということです。

まず、相手を理解することで、どのように対応すべきかが見えてくるのではないか。

このように思っています。

それではがんの成り立ちについて話を進めていきましょう。

がんの成り立ち

わたしたちは、体の中に約60兆という非常にたくさんの数の細胞を持っているといわれます。
どうしてこれほどたくさんの細胞を持つ必要があるのでしょう。

それは進化の必然と関連していると私は考えます。

この60兆の細胞は、生命を維持するためにさまざまな活動を行なっているわけですが、
そのときに全体のうちの一定の割合が不安定な動きをします。

細胞全体の中に、いわば自動車のハンドルの「あそび」のような存在があるのです。

ある一定の割合とは、総数のルート分にあたります。

シュレーディンガーのルートnの法則

ここでノーベル物理学賞を受賞したシュレーディンガーの『生命とはなにか』を参照してみます。

量子力学を生み出したシュレーディンガーは、
現代医学の基礎である分子生物学の生みの親でもあります。

そのシュレーディンガーは、生物の法則を物理学の側面から解き明かしたのですが、
ここでルートという概念が出てきます。

シュレーディンガーは、ある物質の中で、
全体の中のルートn(nは数字)の数の分子が誤差的に乱れた動きをすると言いました。

nが100であればルートnは10です。nが100万であれば、約1000がルートです。

さて、人間の細胞総数である60兆個のルートは、約774万個となります。

約774万個の数の細胞が乱れた働きをするのです。

この乱れた動きをする細胞は、体の「ゆらぎ」ともいえる部分で、
さまざまな環境の変化などに適応するために必要なものです。

自動車のハンドルの「あそび」は安全な運転のために必要なものです。

同じように体の中で乱れた動きをする約774万個の細胞は、
わたしたちが生命活動を正常に維持するために必要なものだといえます。

しかし、これらの細胞は、一方ではよくない働きをする可能性もあります。

毎日5000個できるがん細胞のもと

わたしたちの体の細胞は、約2年ですべて入れ替わるといわれています。

そうすると、2年間で774万個の乱れた動きをする細胞が
発生する可能性があるということになります。

これを1日あたりの数で見てみると、ざっと数えて1万個程度になります。

分子生物学的に見てみると、一日1万個程度の異常細胞が出る可能性があるのです。

そのうち約半分、五千個くらいががん細胞のもとになるのではないかと考えます。


これらがん細胞のもとを排除するのが免疫力です。

発がんというのは免疫の力が落ちてきたときに起こるのです。


異常細胞を生み出すエントロピー

これらの異常な振る舞いをする「ゆらぎ」細胞は、
喫煙や飲酒、無茶な食事といった生活習慣から生み出されたさまざまな不要物が
蓄積した結果生じることがほとんどだと思います。

私は、細胞の働きを乱す原因となるものを、エントロピーと呼んでいます。

エントロピーについては、次回詳しく書くことにします。

生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波文庫)

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