京都からすま和田クリニック 和田洋巳の相談室

がん専門医の和田洋巳が40年近くのがん治療の経験で感じた「がんが住みにくい体づくり」について書いていきます。そのほか興味深いがんの症例やがんを防ぐ基礎知識など。

クエン酸サイクルと電子伝達系


    活性酸素が体によくない影響を及ぼすということを
    知っている人は多いと思います。
    活性酸素が老化の原因となり、
    ひいてはがんができるもとになるということも
    よく知られてきています。

    そのとき体内は何が起こっているのでしょう。
    その仕組みについて説明します。


    クエン酸サイクルとATP


    私たちの体の中では、絶えず活性酸素が生まれています。


    私たちが食事によって取り込んだ炭水化物などの糖質や脂質は、
    細胞の中のミトコンドリアによってATPという
    エネルギーに変換され、生命を維持するために使われます。


    体内に入った糖質や脂質はブドウ糖に分解され、
    さらにピルビン酸に変えられます。
    ピルビン酸はミトコンドリアの中でアセチルCoAと呼ばれる物質になり
    クエン酸サイクル」と呼ばれる生化学反応の回路に送られます。

    クエン酸サイクルは、好気性代謝という、
    酸素を使う代謝の中で最も重要な反応です。
    クエン酸サイクルの中では、ブドウ糖からの分解物である
    アセチルCoAが段階的に八種類の酸に分解されます。


    クエン酸サイクルでアセチルCoAが酸化される、
    つまり酸素によって分解されてゆく八種類のそれぞれの段階で、
    エネルギーの元となる電子が発生するのです。

    電子という形で取り出されたこのエネルギーは、
    さらにミトコンドリア内の「電子伝達系」という反応で
    ATPという生命の維持に欠かせないエネルギーにされます。

    ◆ 電子伝達系と酸化還元


    生体が生命を維持するために行う化学反応のことを
    代謝といいます
    が、すでに説明したとおり、
    代謝の際に必ず酸化が起こります。

    クエン酸サイクルにおいて代謝が行われるときも
    当然体は酸化してゆくし、クエン酸サイクル以外でも、
    電子(イオン)が発生するあらゆる場合に酸化還元の現象が起こります。

    一般に、酸化とは酸素と結合することであり、
    還元とは酸素を奪われることだと思われていますが、
    この働きを水素と電子の動きという側面から見てみると、
    酸化とは水素や電子を失うことであり、
    還元は水素や電子を得ることなのです。


    酸素や水素、そして電子をやり取りする酸化還元という
    現象のすべてが、広い意味での電子伝達系といえます。

    ◆ 体内でエネルギーを作る一重項酸素


    ミトコンドリアの中で起こっている
    クエン酸サイクルと電子伝達系というATP生成反応の過程では、
    必ず酸化と還元の現象が起こっているのですが、
    ここで使われる酸素は、反応しやすい
    一重項酸素という形で用いられています。

    空気中にある三重項酸素は酸素原子が
    二つ結合したものなのですが、
    これを半分に割ると一重項酸素になります。

    これは活性酸素の一種で、非常に反応性の高い酸素です。
    体内ではこの一重項酸素を使ってエネルギーを生み出しているのです。

    なぜかといえば、空気中にある安定した三重項酸素を
    エネルギー体として用いるときには、
    今あるエネルギーレベルを一度上げなければならないからです。
    具体的には、火をつけたり、強い衝撃を与えたり
    しなければならないということになります。

    ところが体内では、この酸素をうまく使うために、
    代謝という形でゆるやかに用いているのです。
    このゆるやかな代謝反応を利用するために、
    反応しやすい一重項酸素という形で少量ずつ使っていきます。


    反応性が高い一重項酸素は、周囲と結びつきやすい性質を持っています。
    これが活性酸素と呼ばれるものです。

    つまり、生きるための活動に必要なエネルギーを得る
    仕組みそのものが、活性酸素を生み出すもとになる
    といえるでしょう。

    私たちの体を老化させ、がん細胞ができるきっかけとなる
    活性酸素を避けることはできないのです。