クエン酸サイクルと電子伝達系
活性酸素が体によくない影響を及ぼすということを
知っている人は多いと思います。
活性酸素が老化の原因となり、
ひいてはがんができるもとになるということも
よく知られてきています。
そのとき体内は何が起こっているのでしょう。
その仕組みについて説明します。
◆ クエン酸サイクルとATP
私たちの体の中では、絶えず活性酸素が生まれています。
私たちが食事によって取り込んだ炭水化物などの糖質や脂質は、
細胞の中のミトコンドリアによってATPという
エネルギーに変換され、生命を維持するために使われます。
体内に入った糖質や脂質はブドウ糖に分解され、
さらにピルビン酸に変えられます。
ピルビン酸はミトコンドリアの中でアセチルCoAと呼ばれる物質になり
「クエン酸サイクル」と呼ばれる生化学反応の回路に送られます。
クエン酸サイクルは、好気性代謝という、
酸素を使う代謝の中で最も重要な反応です。
クエン酸サイクルの中では、ブドウ糖からの分解物である
アセチルCoAが段階的に八種類の酸に分解されます。
クエン酸サイクルでアセチルCoAが酸化される、
つまり酸素によって分解されてゆく八種類のそれぞれの段階で、
エネルギーの元となる電子が発生するのです。
電子という形で取り出されたこのエネルギーは、
さらにミトコンドリア内の「電子伝達系」という反応で
ATPという生命の維持に欠かせないエネルギーにされます。
◆ 電子伝達系と酸化還元
生体が生命を維持するために行う化学反応のことを
代謝といいますが、すでに説明したとおり、
代謝の際に必ず酸化が起こります。
クエン酸サイクルにおいて代謝が行われるときも
当然体は酸化してゆくし、クエン酸サイクル以外でも、
電子(イオン)が発生するあらゆる場合に酸化還元の現象が起こります。
一般に、酸化とは酸素と結合することであり、
還元とは酸素を奪われることだと思われていますが、
この働きを水素と電子の動きという側面から見てみると、
酸化とは水素や電子を失うことであり、
還元は水素や電子を得ることなのです。
酸素や水素、そして電子をやり取りする酸化還元という
現象のすべてが、広い意味での電子伝達系といえます。
◆ 体内でエネルギーを作る一重項酸素
ミトコンドリアの中で起こっている
クエン酸サイクルと電子伝達系というATP生成反応の過程では、
必ず酸化と還元の現象が起こっているのですが、
ここで使われる酸素は、反応しやすい
一重項酸素という形で用いられています。
空気中にある三重項酸素は酸素原子が
二つ結合したものなのですが、
これを半分に割ると一重項酸素になります。
これは活性酸素の一種で、非常に反応性の高い酸素です。
体内ではこの一重項酸素を使ってエネルギーを生み出しているのです。
なぜかといえば、空気中にある安定した三重項酸素を
エネルギー体として用いるときには、
今あるエネルギーレベルを一度上げなければならないからです。
具体的には、火をつけたり、強い衝撃を与えたり
しなければならないということになります。
ところが体内では、この酸素をうまく使うために、
代謝という形でゆるやかに用いているのです。
このゆるやかな代謝反応を利用するために、
反応しやすい一重項酸素という形で少量ずつ使っていきます。
反応性が高い一重項酸素は、周囲と結びつきやすい性質を持っています。
これが活性酸素と呼ばれるものです。
つまり、生きるための活動に必要なエネルギーを得る
仕組みそのものが、活性酸素を生み出すもとになるといえるでしょう。
私たちの体を老化させ、がん細胞ができるきっかけとなる
活性酸素を避けることはできないのです。