ミトコンドリアとATP
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私たちの体の中では、常にATPというエネルギーが作られ、
それによってあらゆる活動が行われています。
前回説明したこの仕組みは、細胞内のミトコンドリアで
起こっているものです。
ミトコンドリア内のクエン酸サイクルでは、
主に水素(H+イオン)が受け渡される電子伝達系によって
ATPが生成されます。
がん細胞は、細胞内でミトコンドリア異常が生じた結果、
クエン酸サイクルを使わず、
解糖系でしか生命エネルギーを得ることができません。
このミトコンドリア異常を正常化するためには
食塩制限とカリウムの多い野菜果物を摂る
食生活が効果的です。
今回はこのミトコンドリアについて説明します。
◆ 太古の海で起こっていたこと
太古の地球では、緑藻が光合成を行うことで、それまで炭酸ガスに満たされていた
大気中に酸素が放出され、
現在われわれが呼吸しているような構成の大気が作られました。
生物は酸素をエネルギー源とすることで効率よく
エネルギーを利用することができるようになったのですが、
ここで問題となったのが、酸素という物質の不安定性です。
酸素はすぐに燃え上がってしまう不安定な性質を持っています。
そのような物質を安全に利用するために、
生物はミトコンドリアを持つようになりました。
ところが、生物はもともとミトコンドリアというものを
持っていませんでした。
ではなぜミトコンドリアがそれほど役に立っているのでしょう。
◆ 生きるために欠かせないATP
緑藻などが太陽エネルギーを取り込み、葉緑体の中でそのエネルギーを使って空気中の炭酸ガスを
吸って酸素を吐き出す「光合成」を行うことで、
ブドウ糖が植物の中に蓄積してゆきます。
これらの一連の生命活動を行うためのエネルギーとして
必要となるのがATPなのです。
植物も動物も生きるために必要とするのがこのATPです。
◆ 嫌気的解糖と好気的解糖
ミトコンドリアはATPを生成する細胞内小器官です。酸素を使ってATPを生成するミトコンドリアによる
「好気的解糖」は、酸素を使わない「嫌気的解糖」に比べ
ATPの生成効率が劇的に向上するのです。
大気中に酸素が存在する以前に生物が行っていた、
硫化水素を使うエネルギー変換の方法が「嫌気的解糖」ですが、
嫌気的解糖では一分子のブドウ糖から
二分子のATPを作ることができます。
いっぽう、酸素を使う「好気的解糖」を行った場合、
最高三八分子(三〇分子〜三八分子)のATPが生成されます。
実に、「好気的解糖」では「嫌気的解糖」の一九倍、
悪くても十倍の効率でエネルギーを取り出すことができるのです。
◆ 生物進化の劇的なきっかけ
真核生物がミトコンドリアを体内に共生させるようになったことは、生物の進化の歴史において、
決定的な変化をもたらす結果となりました。
真核生物が、極めて効率のよい好気的解糖という
役割を担っているミトコンドリアを
体内に共存させるようになったことによって、
それまで行われていたエネルギー効率の悪い
「嫌気的解糖」ではありえなかった大きな体を持つ
多細胞生物の誕生へと繋がっていったのです。
原始の海に生まれた生命体は、
このように酸素呼吸を行うことで大型になり、
やがて陸上へと活動の領域を広げていきました。
人間のように六〇兆もの細胞を持つ大きな生物も、
ミトコンドリアを利用したこのエネルギー生成システムによって
存在することが可能となったのです。