生命と酸素のかかわり
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私たちは、もしも酸素がなかったとしたら
わずか数分しか生命を維持することができません。
生きるためにこれほど欠かせない酸素という物質は、
実は、体の中にがん細胞が生まれるメカニズムと
深く関わっているのです。
呼吸によって体の中に取り込まれた酸素は、
活性酸素という形で体内で用いられます。
私たちは酸素を使った好気的解糖という仕組みによって
常に生きるためのエネルギーであるATPを
生成しているということは、すでに説明しました。
ところが酸素を使うことで体の中によくないものが
溜まっていき、その溜まったものは
やがて生体を脅かすがん細胞を生み出します。
私はこの仕組みを、シュレーディンガーの提唱した
エントロピーという概念を用いて説明しています。
がんにならない体つくりのためには、
このエントロピーについて理解することが
きわめて重要になってきます。
シュレーディンガーのエントロピー理論については、
別のエントリーで説明していきますが、
その前提として、原始生命体が生まれた当時の
地球のようすがどうだったのか見ていきます。
太古の地球に生まれた生命は、酸素のないところで
生きていました。
◆ 原始の海と生命の誕生
原始の地球に原始的な生命が生まれ、
そしてその生命体が進化して人類となるまでには、
およそ46億年の年月が必要だったといわれています。
原始地球ができてから5、6億年経ってようやく、
ごく微小な生命体が地球上に誕生しました。
その生命体が進化の道を歩み、
哺乳類のような大きな動物が生まれるまでに
地球の歴史のほとんどの時間を費やしました。
最終的に人類が誕生するのはわずか数百万年前のことです。
生命体といっても、太古の海に誕生した原始生命体から、
60兆もの細胞を持つ人類にいたるまで、
おびただしい種類が存在します。
◆ 生命の定義
改めて考えてみたいのですが、
そもそも生命とはどのような特徴を持つのでしょう。
生物を規定する概念のひとつとして、
自己複製が可能であるということがあります。
原始の海にはじめに生まれた生命体は、
硫化水素をエネルギー源としていました。
現在の地球に生きるほとんどの生物は
酸素を呼吸してエネルギーを作っていますが、
太古のこの時代には酸素はほとんど存在していません。
もし当時の地球の様子を見ることができるなら、
現在われわれが暮らしている地球とは
まったく別の世界を目にすることになるでしょう。
◆ 古代の海
大気は炭酸ガスや窒素に覆われ、
海は硫化水素やシアンなどに満たされていました。
その海にはおびただしい数の隕石が降り注いでいたことでしょう。
今でもこの硫化水素をエネルギー源にしている生物は、
ごくわずかですが存在します。
それはチムニーと呼ばれる
深海の火山の吹き出し口の周りに生息する生き物です。
これらは火山の吹き出し口から出る硫化水素を
エネルギーとして生きています。
◆ 緑藻の誕生
かつて原始の地球上では、すべての生物が
硫化水素をエネルギーにしていたのですが、
ある時点で緑藻という生命体が海の中に発生しました。
このことは、地球環境にも、また生物の進化にとっても、
非常に画期的なできごとでした。
緑藻の中の葉緑体は、空から降り注いでくる
太陽光のエネルギーを使って、
空気中の炭酸ガスと水から、さかんにブドウ糖を作りました。
このときに緑藻は副産物として酸素を吐き出したのです。
緑藻の生命活動によって海中で光合成が始まると、
緑藻から放出される酸素が次第に増えはじめました。
当初は大気中にまったく存在していなかった
酸素が徐々に増え、ちょうど大気の21%に
達したところでバランスが均衡しました。
◆ 嫌気的解糖と好気的解糖
酸素を用いず、硫化水素によって
エネルギーを作り出す仕組みを「嫌気的解糖」といいますが、
原始地球の海で嫌気的解糖を行っていた生物は、
大気中に酸素が増えるにつれてほぼ死に絶えました。
生き残ったわずかの生物も深海の奥などに
逃げ出すことで、かろうじて命をつなぐことになりました。
その頃、酸素という新たなエネルギーを用いる
生命体が原始の海に誕生したのです。
これらの生命体は、「好気的解糖」という
酸素を利用した効率的なエネルギー生成システムによって
しだいに活動の範囲を広げていきました。
酸素を使う「好気的解糖」に比べ、
硫化水素を使う「嫌気的解糖」は10分の1以下の
エネルギー効率しかありません。
これはどういうことかというと、
効率の悪い硫化水素をエネルギー源として生きていた生命体は、
大きく育つことができなかったということです。
ごく微細な大きさにしか、成長することができなかったのです。
ところが酸素を使った「好気的解糖」では、
効率のよい酸素という物質を使って
必要なエネルギーを作ることができるため、
個体を大きく成長させることが可能となったのです。
このあたりの仕組みについては、
ミトコンドリアとATPで詳しく説明しています。
これがきっかけとなって、現在見られるような生物の進化が
はじまりました。