京都からすま和田クリニック 和田洋巳の相談室

がん専門医の和田洋巳が40年近くのがん治療の経験で感じた「がんが住みにくい体づくり」について書いていきます。そのほか興味深いがんの症例やがんを防ぐ基礎知識など。

肉はなぜ身体に悪いのか?

肉が身体に悪いのか? 癌の原因になるのか?とういう話は常に議論の的になる。患者さんを診ていると確かに癌の原因になっていそうだと言う気はするが。
最近そのような目で色々と資料を探したところいくつかのことが見つかった。

はじめの論文は1975年のCancer Researchと言う癌関係では比較的ランクの高い医学雑誌に掲載されていた。
アメリカのある宗教習慣を持つ『Seventh-Day Adventists'』会派は生活習慣は肉は避ける、卵やミルクを許容するベジタリアン食生活を行う人々である。 大腸癌は一般の人に比べ1/2-1/3倍と低いことが示されていた。しかし乳癌についてはこの食生活がよいということはなかった。

当然の結論と思える。肉が結腸癌の原因になりそうなことは可なり考えられるが、牛乳を飲んでいれば肉食をやめても乳がんや卵巣癌になる可能性は排除されにくい。

2つ目の論文はCancer Epidemiol Biomarkers Prev 2008;17(1):80–7と言う栄養学関係の雑誌である。肉やその加工品は前立腺癌の原因になると言うことである。この因果関係はそれほど強いものでなく1.3倍ほど高いということである。これには他の食生活のバイアスが入っている可能性が高い(例えば牛乳や乳製品を摂る頻度など)。しかし面白いのは良く焼いた(調理した)か非常によく焼いた肉が悪いということである。ヘテロサイクリックアミンが原因ではないかと述べている。

3番目の論文は魚と肉食を比較した論文でヨーロッパからの報告である。J Natl Cancer Inst 2005;97:906–16に掲載されている。 赤身の肉・加工肉食品をよく摂ることは結腸直腸癌にかかる危険率が上がり、魚を取るとその率が低下するということである。 ヘテロサイクリックアミンやポリサイクリック アロマチック ハイドロカーボンがその原因かと推測している。

このほかのレポートでは赤身の肉が悪いと言うのが多くみられる。

この理由はおそらく『Fenton 反応』が関与していると考えられる。鉄イオンが存在するときにある種の活性酸素種・スーパーオキサイドや過酸化水素(O2−,H2O2)があると猛烈な反応性のあるOH・ラディカルが発生しうる。このラディカルは極めて短い時間に(ナノ秒単位)に極めて近所の(ナノメーター単位の範囲で)分子と反応をきたす。グアニンが8ヒドロキシグアニンになると言う反応は有名な反応である。

焼き肉を食べビールを飲みタバコを吸えばやはりいつかは発癌すると言う多くの癌患者を診てきた自分としてはこのような話は判りやすい説明になる。糖尿が合併するとAGEが多く存在することからさらに危険度は上がってくる。

鉄が悪いという直接的な説明としてはJ Nat Cancer Inst 2008;100:996-1002の論文で
ある種の血管変性疾患の患者さんに対し年に2回の瀉血が癌の発生・死亡率を37%減少したと報告されている。体内貯蔵鉄としてのフェリチンを見ている。疫学調査としての考察しかされていないが基本的には細胞内遊離鉄による『Fenton 反応』の関与であろう。

1)Role of Life-style and Dietary Habits in Risk of Cancer among Seventh-Day Adventists'
Roland L PhiHip. (CANCER RESEARCH35,3513-3522,Novemberl975)
2)Meat and Meat Mutagens and Risk of Prostate Cancerin the Agricultural Health Study
Stella Koutros,rt al;(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2008;17(1):80–7)
3)Meat, Fish, and Colorectal Cancer Risk: The European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition
Teresa Norat et al;J Natl Cancer Inst 2005;97:906–16
4)Decreased Cancer Risk After Iron Reduction in Patients With Peripheral Arterial Disease: Results From a Randomized Trial, Leo R. Zacharski,et al. J Natl Cancer Inst (2008) 100 (14): 996-1002.