京都からすま和田クリニック 和田洋巳の相談室

がん専門医の和田洋巳が40年近くのがん治療の経験で感じた「がんが住みにくい体づくり」について書いていきます。そのほか興味深いがんの症例やがんを防ぐ基礎知識など。

講座:なぜがんは発生し、成長し、そして増殖するのか?〜第1回〜

少し間が空いてしまいましたが、今回から新講座をはじめていきたいと思います。前回までの15回にわたる講座「がん細胞の成長と生活習慣病の関連」では、概論として大まかなことがわかるように説明をしてみました。新講座では、前講座と重複もしつつ、もう少し「がんの発生」、「がんの成長」、「がんの増殖」ということを整理して詳しくお話しできればと思っています。

まず、はじめのトピックとして、「がんはなぜできてしまうのか?」、すなわちがんの発生のメカニズムに迫ってみたいと思います。

『何でがんはできるのか?』
体を構成している細胞60兆個の√n個分がゆらぎとして外れます。この部分が、がんを作ります。シュレディンガーの本の中に『ヒトの体は60兆個の細胞から成り立っているが、そのうちの√n個が不安定な動きを示す』と書いてあります。このように書くと非常に難しく感じますが、簡単に言えば、こんなことかもしれません。

「毎日7時間半寝ています」という人がいたとします。この「毎日」というのはやっかいな言葉で、本当に毎日きっかり7時間半寝ている人なんてほとんどいないでしょう。
 
 非常にきっちりしていても15分くらいのずれはあるでしょうし、ずれが大きい人は4時間の日もあれば10時間の日もあります。この「ずれ」は、誰にでもあることですが、大きくなればなるほど、非常に不安定な毎日を送っていることになり(きっちりし過ぎるのもこれはこれで良くないかもしれませんが)、身体的・精神的に歪みを生じる可能性があります。つまり、人間のからだの中での「ゆらぎ」とはこの「ずれ」に相当する部分といえます。


√60兆を計算すると、774万個くらいの細胞が2年でターンオーバーするとして、1日1万個くらいのゆらぎ細胞ができることになります。ものすごくいい加減な計算ですが、このうち50%ががん化するとしたら1日5,000個のがん細胞ができます。この「ゆらぎ」を我々は免疫系で抑えています。今のがん治療で、免疫治療という言葉はあっても、標準治療のドクターは免疫について何も言ってくれません。では「ゆらぎ」を抑える免疫とはどのようなことを言うのでしょうか?

次回へ続く。

*文中に出てきたシュレディンガーとは、エルヴィン・シュレディンガーという理論物理学者で、「シュレディンガー方程式」や「シュレディンガーの猫」などを提唱したノーベル賞受賞者です。彼が、発表した著書「生命とは何か」の中で、上のようなことを書いています。ご興味のある方はぜひお読みください。

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