京都からすま和田クリニック 和田洋巳の相談室

がん専門医の和田洋巳が40年近くのがん治療の経験で感じた「がんが住みにくい体づくり」について書いていきます。そのほか興味深いがんの症例やがんを防ぐ基礎知識など。

抗がん剤の始まりは毒ガスから?


    ◆ がんは戦う対象なのか


    現代のがん治療は、19世紀にパスツールやコッホなどが提唱した
    “細菌を殺す”という概念をそのまま治療学に用いています。


    細菌は外部から侵入した異物なので、体の中の細胞とは
    異なった構造をしています。
    細菌は細胞膜の外側に細胞壁を持っているのですが、
    この細胞壁を合成させないようにする薬が抗生物質です。
    抗生物質が細菌を殺す仕組みはこのようになっているのです。

    感染症が猛威を振るった時代には、
    抗生物質はまるで「魔法の薬」のように圧倒的な存在でした。


    問題は、この考え方の延長線上に、
    がんを治すために抗がん剤という薬を使うという
    治療方針が生まれたことです。

    ◆ 毒ガスが抗がん剤のはじまりだった


    第一次世界大戦の終わりに使われた毒ガスに
    マスタードガスというガスがあります。

    この頃、マスタードガスを製造する毒ガス工場で働いていた
    白血病患者の病気が治ったという事例が報告されたのです。
    そこで、このガスにはがん細胞を攻撃する力があるとされたわけです。

    このような経緯で、毒ガスであるマスタードガスががん治療薬、
    つまり抗がん剤として使われるようになりました。

    宿主の体内から発症するがんという病気の治療に、
    細菌による感染症治療のための方法論が用いられたのです。


    体の中から生まれる病気であるがんと、
    外部からやってきた細菌によって引き起こされる
    感染症の治療方針が同じであってよいのか。

    このことについて慎重な検討が行われることもなく、
    がんを薬で攻撃する抗がん剤という治療方法が、
    一人歩きしてしまっているのががん治療の
    現状だといえるかもしれません。

    ◆ 標準がん治療で定められている量とは


    がん細胞の特徴のひとつとして、
    猛烈な勢いで細胞分裂が行われるという点があげられます。


    分裂の速度が速い細胞を殺すというのが
    抗がん剤の働きですが、その副作用として、
    毛が抜けたり爪が変形したりします。

    毛根や爪といった分裂速度が速い正常な細胞も、
    抗がん剤によってダメージを受けるのです。

    残念ながら、現在の標準がん治療において
    最適とされる抗がん剤の量は、
    臨床試験で患者さんに抗がん剤を投与し、
    腫瘍が縮小したりする効果を測りながら量を増やし、
    あとわずかで患者さんが死亡するというぎりぎりの量が定められています。

    つまり、それ以上投与すると亡くなってしまうという
    直前の量を投与するのです。

    当然、その段階で抗がん剤によって骨髄機能が破壊され、
    生命力がかなり衰えてしまっています。

    抗がん剤も使い方しだい


    抗がん剤の使用については賛否両論ありますが、
    標準がん治療で定められている量は、
    このようにして決まっているということは知っておきたいものです。

    その上で、どのくらいの量を使えばよいかということを
    医師と相談しながら決めていくことをすすめます。

    私は少量の抗がん剤をゆるやかなペースで
    用いるというやり方がいいのではないかと思います。


    抗がん剤イコールよくないもの、というふうには考えていませんが、
    骨髄免疫機能が破壊されない範囲で、
    がんをおとなしくさせるために用いるのがいいと思っています。

    参考までに、これらの記事にも目を通していただければと思います。
    >> がん細胞の数と、その数に応じた治療のめやす
    >> がんが住みやすい体質が分かる「からだ力」