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今回は、シリーズ最終回として、からすま和田クリニックでのがん治療の治療到達目標、患者さんにすすめていることについてお話します。
前回書いたような食事(糖分を摂り過ぎず、野菜・果物を多く食べ、肉・乳製品は控える)により身体のアルカリ化を計り、炎症を下げ、免疫力を上げることが目標です。それでも不十分な場合は、緩やかに抗がん性のあるものを摂ったり、抗がん剤投与を行うこととしています。
具体的には、
① 水溶性食物繊維を多く摂り、順調な排便を継続させる
② 食事を『野菜・果物』を中心にする、乳製品は厳禁、牛・豚肉も厳禁
③ 免疫を上げる食事をする=キノコを潰して食事に含めるようにする
④ 尿のアルカリ化が食事で充分にできないときは『クエン酸・重曹』を摂らせる
ということを、患者さんにお勧めしています。
これらは、抗がん剤などのいわゆる標準療法とバッティングするところはありません。
以上、5回にわたり、北海道大学医学部で行った講義を要点のみ簡単にまとめました。
読んでいただき、ありがとうございました。
なお、今回まとめた内容の詳細が書かれた本
「がんとは何か?その本質はNHE1だ! がんの生きる仕組みとそれを用いたがん治療法」
は、アマゾン、和田屋で販売されております。
興味のある方はぜひ読んでみて下さい。
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前回は、がん細胞の2つの特徴
『ワールブルグ効果』:酸素を使わずに糖を大量に消費してエネルギーを生みだす
『細胞内アルカリ化』:細胞の内部がアルカリ性、外部が酸性となっている
について、説明しました。
では、これらの特徴に対応した、がん細胞が生きづらい生活習慣とは何でしょう。
まず、『ワールブルグ効果』についてですが、がん細胞のエネルギー産生を少しでも抑えるためには、大量の糖分を身体に入れないことです。
つまり、甘いお菓子や、精製された炭水化物(白米、パン、パスタ、うどん等)を摂り過ぎないことが大事です。
ただし、全く糖分を摂らないと、通常のエネルギー産生経路(酸化的リン酸化)も回らなくなってしまいます。私は、がんの患者さんには、野菜や果物、非精製炭水化物(玄米、全粒粉パン、全粒粉パスタ、十割そば等)は、適度に摂るようお勧めしています。
次に『細胞内アルカリ化』です。
細胞内がアルカリ性、細胞外が酸性となっている環境が、がん細胞にとって生きやすいので、その逆に努めるのがよいと考えられます。
がん細胞のすぐ外のpHは簡単には測定できないのですが、尿pH測定で代用できると仮定します。
野菜や果物は尿pHを上げるのですが(細胞外をアルカリ性にする)、チーズなどの乳製品や肉類は尿pHを下げます。(細胞外を酸性にする)
つまり、野菜や果物を多く食べ、乳製品や肉類をあまり食べないことが、がん細胞を生きづらくさせる食習慣と考えられます。世界的に、このような食事は「アルカリ化食(Alkaline Diet)」と呼ばれています。
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前回は、正常細胞が慢性炎症の状況下に長期間置かれていると、逆行性信号によってがん細胞に誘導される、ということをお話しました。
では、正常細胞ががん細胞になるというのは、実際どういうことなのでしょう。全てのがん細胞に共通する性質が2つあります。
『ワールブルグ効果』と『細胞内アルカリ化』です。
まず、『ワールブルグ効果』について説明します。
通常、細胞はその代謝活動に必要なエネルギーを酸化的リン酸化という方法で生み出します。この方法では、酸素を使って効率よくエネルギーを産生します。酸素がないときには、解糖系という方法でエネルギーを産生します(嫌気性解糖)が、これはエネルギー効率が非常に悪いです。
しかし、がん細胞は、周りに酸素があっても解糖系でエネルギーを産生します。(好気性解糖)これを『ワールブルグ効果』と呼びます。この方法ではエネルギー効率が悪いために、エネルギー産生のために大量の糖分を用いることとなります。
次に、もうひとつのがん細胞の特徴、『細胞内アルカリ化』についてお話しします。
正常細胞では細胞内のpHは7くらい(ほぼ中性)ですが、がん細胞では7.2-7.7くらい(弱アルカリ性)を示します。細胞外のpHは、反対に、正常細胞では7.2-7.4のアルカリ性、がん細胞では6.2-6.8の産生となっています。つまり、がん細胞は、正常の細胞と異なり、細胞の中が弱アルカリ性、細胞の外の周囲の環境(がん周囲微細環境:TME)が弱酸性となっているのです。
逆行性信号によって、細胞が『ワールブルグ効果』『細胞内アルカリ化』という2つの性質を持つようになり、それが正常細胞からがん細胞への変化といえると考えられます。
次回は、このがん細胞の特徴をターゲットとした、がん細胞が生きづらい生活習慣について考えてみます。
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今回も、前回に引き続き、昨年末に行った北海道大学医学部生へ行った講義の内容のまとめです。
今回は、第2回として、「がんはなぜできるのか」について書いていきます。
がんはどのようにしてできるのでしょうか。
慢性的に起きている炎症などによる障害の繰り返しで傷ついた細胞は、修復されていかなければなりません。そのときに、栄養(ブドウ糖)はあるのに酸素がないという状況になると、ミトコンドリアが崩壊し細胞はアポトーシス(自滅死)を起こします。[下スライド:緑の細胞]
しかし、その中でもなんとか生き延びようとした細胞のミトコンドリアでは、逆行性信号というシグナルが出て、細胞は正常細胞から腫瘍(がん)細胞の性格を帯びるようになります。[下スライド:黄色の細胞]
逆行性信号の詳細は未だ不明ですが、浸潤行動を誘導し、正常細胞に腫瘍細胞性格を誘導するシグナルであることがわかっています。
つまり、仮説ではありますが、がんとは、慢性炎症の場で、栄養があるのに酸素が少なくなり、勝手に生きていくことを余儀なくされた細胞であると考えられます。がんは自分自身の身体の中で作ったものといえるのではないでしょうか。
次回は、この逆行性信号によって誘導される、腫瘍細胞性格(がん細胞の特徴)とは何か、ということについて書いていきます。
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2014年から北海道大学の佐邉教授に招かれて、北海道大学医学部2回生の生徒達に向けて、毎年講義をしています。今年はコロナ禍でオンライン講義でしたが、もう7回目になりました。このときの講義内容を、5回に分けてこのブログでまとめていきます。
- がん治療に対する私の考え方
- がんはなぜ発生するか
- がんの特徴
- がんになりにくい生活習慣
- からすま和田クリニックでおこなっていること
今回は第1回として、私のがん治療に対する考え方について、簡単に書いていきます。
医学が生命を扱う学問であるにもかかわらず、現在の臨床医学においては、「なぜ病が生命体に生じるのか」という哲学的思考が欠けているように思っています。
がんがその個体(人間)にできた理由は必ずあり、そのできた理由に従って、がんが存在しにくい環境を作り、その環境に対応した治療をすれば、現在治療困難ながんも治療の可能性が出てくるのではないかと、私は考えています。
現在のEBM(エビデンス・ベイスト・メディスン)においては、Stage Ⅳ(ステージ4)や再発したがんは治らないという前提で治療を死ぬまで続けましょうという話になっています。しかし、わずかではあっても治った人はいます。その人たちは何をして治ったのかということを学び、また新しく仮説を作り、実証を試みるという形で、新しいEBMを構築する必要があるのではないでしょうか。
次回は、がんの発生機序について、お話しします。
平成29年 講演会スケジュール
北海道医学会総会(腫瘍系分科会)
日時:10月21日(土)13:00~14:30(内1時間)13:43 2017/06/06
場所:未定
ハルメク 福岡講演会
日時:9月29日(金)13:30~15:00
場所:レソラホール 西鉄福岡(天神)駅前
青森講演会
日時:9月9日(土)13:00~17:00
場所:青森県火災共済協同組合
第6回エビデンスに基づく統合医療(eBIM)研究会
テーマ:「がんは代謝疾患である」EBMからSBMへ
-paradigm Shift-栄養療法の基礎と臨床視点から
日時:9月3日(日)14:15~15:00(予定)
場所:神戸学院大学 ポートアイランドキャンパス
B号館2階講義室
日本メディカルサプリメント協会
テーマ:がん治療における食事の意義
-pHiとpHeの視点から見て-
日時:7月9日(日)13:00~14:30
場所:BIS新宿 A研究室 (東京都新宿区西新宿6-8-2)
日本がんコンベンション
テーマ:がん治療における食事の意義
-pHiとpHeの視点から見て-
日時:7月8日(土)14:10~15:10
場所:ヒューリックホール(浅草橋)
------- 講演会終了分 -------
第17回日本抗加齢医学会総会
テーマ:食事でがんは治るのか-pHiとpHeのおはなし-
日時:6月3日(土)15:35~16:05
場所:東京国際フォーラム
NPO丸山ワクチンとがんを考える会
テーマ:「がんは代謝疾患である!?」
がんの本質とは?-丸山ワクチンは有効か?-
日時:5月20日(土)15:00~17:00(内40~45分)
場所:東京神田如水会館 スターホール
京大医学部肝胆膵移植外科 新大学院生向け講義
日時:4月11日(火)19:00~19:40
田中消化器科クリニック
テーマ:がんに負けない身体をつくる-食事でがんが治るのか-
日時:3月11日(土)13:30~15:00
場所:静岡音楽館AOI(静岡市葵区)
講座:がんに負けないからだをつくる〜がん治療のパラダイムシフト〜1
今回から新講座をはじめていきたいと思います。
この講座は、2015年4月4日~12日に、京都駅周辺で開催された市民公開講座「医総会week 2015」にて私がお話しさせて頂いた講演内容になります。
前回の講座では、主にこころに注目して、こころとからだの関係性からがん治療について説明をしてきましたが、今回の講座ではこれまでの講座全体の総論にあたるお話しをしていきたいと思います。
まず、おさらいとして、現在のがん治療の特徴です。
現在のがん治療は、がんに見られる顕著な10の特徴を抑え込むための薬を開発し、それらでがんを抑制しようとしています。
これは、部分的には間違っていませんが、がんを持つ身体を診られていません。つまり、木を見て森を見ず、の状態になっていると言えるように思います。
これは何度も当ブログで話していることですが、とても重要なので繰り返します。
がんとは、自分の身体にできたものです。つまりがんをたたくということは、自分の身体をたたくということになります。
がんを治めるには、がんが棲みにくい身体を作ることが必要です。
がんが棲みにくい身体は適切な食生活・生活と、副作用の少ない治療から作ることができます。
つまり、がん治療は、バクテリアや寄生虫治療とは違うということです。
これもおさらいですが、がんの特徴的な性質として、特殊な解糖メカニズムがあります。
通常、人の細胞、たとえば筋肉は、ミトコンドリアを有しているため、酸素が十分にある状態では、エネルギー源である糖分からたくさんのエネルギー(ATP)を取り出す代謝を行うことができます。
ところががん細胞は特殊な代謝になっていて、酸素が十分にあるときでも、ないときと同じ代謝を行います。酸素が十分に細胞に行き届かないとき(たとえば100メートル走を走るとき)、細胞は糖分から直接エネルギーを取り出しますが、これで得られるエネルギーは非常に少なく、さらに乳酸を生成してしまいます。
乳酸がたまると細胞内が酸性に偏ってしまうため、がんはこの酸をナトリウムと引き換えに吐き出すナトリウムプロトン(水素イオン)ポンプという仕組みも持っています。これらの特徴はがんが周りの細胞へと転移し、増殖していくメカニズムの基本になっています。
最近わかってきたことは、この特殊な代謝メカニズムが、がん細胞の周囲微細環境を酸性にし、それによって、がん細胞を増殖・発生させる上で大きな影響を及ぼしているということです。
これは、がん細胞の代謝は、がんの成長と生存をサポートするための仕組みであるとも言い換えられます。
このようながんを取り巻く環境に対して、食事治療やこころの持ちようが大事になってくるわけですが、
次回は、果たしてがんを治療する上でどのような要素が必要なのかについてお話していきます。