京都からすま和田クリニック 和田洋巳の相談室

がん専門医の和田洋巳が40年近くのがん治療の経験で感じた「がんが住みにくい体づくり」について書いていきます。そのほか興味深いがんの症例やがんを防ぐ基礎知識など。

前回は、正常細胞が慢性炎症の状況下に長期間置かれていると、逆行性信号によってがん細胞に誘導される、ということをお話しました。

 

では、正常細胞ががん細胞になるというのは、実際どういうことなのでしょう。全てのがん細胞に共通する性質が2つあります。

 

『ワールブルグ効果』と『細胞内アルカリ化』です。

 

まず、『ワールブルグ効果』について説明します。

通常、細胞はその代謝活動に必要なエネルギーを酸化的リン酸化という方法で生み出します。この方法では、酸素を使って効率よくエネルギーを産生します。酸素がないときには、解糖系という方法でエネルギーを産生します(嫌気性解糖)が、これはエネルギー効率が非常に悪いです。

 

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しかし、がん細胞は、周りに酸素があっても解糖系でエネルギーを産生します。(好気性解糖)これを『ワールブルグ効果』と呼びます。この方法ではエネルギー効率が悪いために、エネルギー産生のために大量の糖分を用いることとなります。

 

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次に、もうひとつのがん細胞の特徴、『細胞内アルカリ化』についてお話しします。

 

正常細胞では細胞内のpHは7くらい(ほぼ中性)ですが、がん細胞では7.2-7.7くらい(弱アルカリ性)を示します。細胞外のpHは、反対に、正常細胞では7.2-7.4のアルカリ性、がん細胞では6.2-6.8の産生となっています。つまり、がん細胞は、正常の細胞と異なり、細胞の中が弱アルカリ性、細胞の外の周囲の環境(がん周囲微細環境:TME)が弱酸性となっているのです。

 

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逆行性信号によって、細胞が『ワールブルグ効果』『細胞内アルカリ化』という2つの性質を持つようになり、それが正常細胞からがん細胞への変化といえると考えられます。

 

次回は、このがん細胞の特徴をターゲットとした、がん細胞が生きづらい生活習慣について考えてみます。