がんを防ぐ長寿遺伝子サーチュイン
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現在がんは急激に増えており、
二人にひとりは生涯のうちにがんを患う
可能性があるという時代になってきました。
今日は、がんを防ぐために役立つ
サーチュイン遺伝子の話をしたいと思います。
◆ がん細胞が生まれるメカニズム
そもそも、がんはどのようなメカニズムで
発症する病気なのでしょうか。
がんは、細胞がダメージを受けることで発生します。
体内で発生した活性酸素や紫外線などによって、
細胞膜やDNA、たんぱく質などが障害を受け、
正常な細胞が傷ついてしまいます。
傷ついた細胞は、暴走して無限に増殖し、
最終的には体の機能を損ない、
生命活動に支障をきたしてしまうのです。
がん発症に至る機構はまだ明らかではありませんが、
炎症に関わる状態がそれを引き起こすのではないかと
かなりの程度考えられています。
炎症が起こっている場の掃除(=貪食)と
その場の修復(=リモデリング)の仕組みが
バランスを崩すと、細胞のがん化が始まると予想します。
がん細胞がこのようにして生まれるということを理解すれば、
がんにならないためにはどうすればよいかが推測できます。
がんになったとしても、がん細胞の勢いを削いで、
おとなしくさせることは可能なのです。
◆ 老化とがん化は同じ?
細胞がダメージを受けることでがんになると説明しましたが、
実はこれは老化のメカニズムと同じでもあるのです。
老化については、最近おもしろい研究が注目されています。
今年の6月12日にNHKスペシャルで取り上げられたことでも
よく知られるようになった長寿遺伝子こと、
サーチュイン遺伝子(Sir2)の存在です。
サーチュイン遺伝子とは、細胞の老化を司る遺伝子で、
別名を長生き遺伝子とも言われる遺伝子です。
すべての人にサーチュイン遺伝子は存在しますが、
活性化している人もいれば、不活性な人もいます。
この遺伝子を活性化させれば長生きできると考えられています。
またがんを予防したり、がんの進行を遅らせたりする効果も
あると期待できます。
意外なことに、サーチュイン遺伝子を活性化させる方法は、
古くから伝えられている健康法にも共通する
「食べ過ぎない」ことなのです。
◆ カロリー制限で若返りを
2009年7月10日付のサイエンス誌にこのような記事が掲載されました。
ウィスコンシン国立霊長類リサーチセンターが行った
アカゲザルによる動物実験では、好きなだけ餌を食べたサルに比べ、
その6割くらいのカロリーに制限した餌を食べたサルは
目立って若々しいという結果が発表されたのです
一定期間アカゲザルの生存率を比較したところ、
好きなだけ食べたサルの生存率は50%だったのに対し、
カロリー制限したアカゲザルは80%と顕著な差が見られました。
それぞれのグループのサルたちの外見にも、
際立った違いがあります。
カロリー制限したサルには、顔のシワが少なく、
姿勢がよく、毛並みもきれいだということが目立ちます。
写真A、Bは好きなだけ餌を食べたサルです。
年齢はアカゲザルの平均寿命である27.6歳です。
顔にシワがあり、毛並みも悪く、姿勢もよくありません。©Science
写真C、Dは餌を制限したサルです。
上のサルと同じ年齢ですが、毛の色艶もよく背筋が伸びています。©Science
実は養鶏の世界でも、似たような話が知られています。
ニワトリは産卵をはじめて1年ほど経つと、
老化して卵の質が落ちてきます。
そこで2週間ほどの断食を行うとニワトリが若返って羽が生え変わり
また元気な卵を生むことができるのです。
これらの現象は、絶食したりカロリー制限することで
サーチュイン遺伝子の発現が促されたたためだと考えられます。
◆ がんと生活習慣病
がんの治療にも、飢餓療法という方法が古くから存在します。
甲田療法などがよく知られています。
飢餓療法は、一時的に摂取カロリーを制限することで
がん細胞を低栄養状態にし、増殖を抑えることを期待する治療法ですが
このときにサーチュイン遺伝子が
発現することがあるのではないかと考えられます。
参考リンク >> 食事療法によって腫瘍が小さくなった進行性肺がんの男性
がんの患者さんには、元気だった頃より
痩せてしまったことを気にする人がいますが、
私の経験では、長生きするには
あまり太り過ぎないほうがいいと感じます。
しっかり食べて太ろうとするよりも、
「ほどほど」のカロリーで栄養バランスのよい
食生活が望ましいでしょう。
糖尿病や高脂血症、動脈硬化などの生活習慣病を持つ人は、
美食が好きで食べ過ぎる傾向がありますが、
生活習慣病患者のサーチュイン遺伝子は活性化しにくいといわれています。
サーチュイン遺伝子が活性化していると、
細胞が酸化しづらく遺伝子が傷つきにくいということから、
老化やがん化を遅らせるのだろうと考えられます。
がんと糖尿病の関係については、下のリンクも参考にしてください。
参考リンク >> 糖尿病になるとがんリスクが高まるわけ