がんを引き起こすエントロピー
- 作者: G.ニコリス,I.プリゴジーヌ,小畠陽之助
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1980/01/18
- メディア: 単行本
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◆ 生命は非平衡の開放系
前回、がんはどのようにしてできるのかという話をしました。今日は、がんを引き起こすもととなるエントロピーの話をしようと思います。
私たちの体では、食べたものと体の中で作られるものによって、エントロピーと呼ばれる、
ある種の産業廃棄物のようなものが発生すると言われています。
これは、複雑系理論に影響を与えたロシア出身の学者イリヤ・プリゴジンの考えです。
エントロピーの出入りについては下の図を見てください。
これは生命体でのエントロピーの出入りを示す図です
(『散逸構造(イリヤ・プリゴジン)』岩波書店より)。
イリヤ・プリゴジンは、「生命は非平衡の開放系であると考えました。
楕円の部分が生命体をあらわしています。
diSが生命体の内部で作られるエントロピー、
deSが生命体と外部との間で
やりとりされるエントロピーです。
この不思議な図が、私たちの体の中で何が起こって、 どのようにがん細胞が作られてゆくのかということを 簡単に説明しているのです。
体内のエントロピーdiSは生きている限り蓄積するばかりです。
いっぽうdeSのほうは、外部から取り込んだり、
また外部に放り出すこともできるエントロピーです。
イリヤ・プリゴジンは、エントロピーを外部とやり取りできることが
生命体の特徴だといいました。
生命体は「開放系」であるという理論です。
◆ 体内に蓄積するエントロピー diS
なぜ、生きているだけでエントロピーが蓄積するのでしょう。私たちの体の細胞の中には、ミトコンドリアという小器官があります。
ミトコンドリアは酸素を使って、ATPという生命を維持するために
必要なエネルギーを作り続けているのです。
ミトコンドリアはATPを作るときに、酸素を活性酸素という形にして使います。
活性酸素がミトコンドリア内にあるときは問題ないのですが、
ときどきわずかな活性酸素が外に漏れ出します。
これがイリヤ・プリゴジンのいうdiSであり、体内で蓄積してゆくエントロピーです。
私たちが、酸素呼吸して生きてゆく生物である以上、
体内にエントロピーが蓄積することを避けることができません。
◆ 外部から取り込まれるエントロピー
エントロピーを外部とやり取りするとはどういうことでしょう。体の中にエントロピーが溜まるということを分かりやすくイメージするには、
体が酸化する と考えてみてください。
外部から入ってきて体を酸化させるものはいろいろありますが、
もっとも有害なものが喫煙でしょう。
タバコは非常に体を錆びさせるものです。
ほかにも酸化の原因はたくさんあります。
大量にお酒を飲むと活性酸素がたくさん出ます。
また焼肉のような食事も要注意です。
どうして焼肉が悪いのでしょう。
それは、牛や豚などの赤身の肉に含まれる鉄分と体内にある過酸化水素が結びついて、
ヒドロキシルラジカルが生成されるからです。
ヒドロキシルラジカルは極めて毒性が強い活性酸素です。
もちろん、古くなって酸化した油などは当然体によくない
エントロピーの塊だといえます。
このようにして、外部からもエントロピーは取り込まれます。
◆ 抗酸化物質のはたらき
エントロピーの増加をゆるやかにする物質もあります。いわゆる「抗酸化物質」です。
抗酸化物質をたくさん取ると体内の酸化を食い止めることができます。
抗酸化物質にはさまざまな種類がありますが、主に植物に含まれています。
ビタミンC、ビタミンE、リコピン、フラボノイド、ポリフェノールなどが代表的な抗酸化物質です。
これらの抗酸化物質は食物という形で外から取り込みます。
しかし抗酸化物質といっても、酸化した物質エントロピーを排出するわけではなく、
酸化の速度をゆるやかにするだけです。
体に溜まったエントロピーはどのようにして排出されるのでしょう。
◆ エントロピーを排出する「デトックス」
生きている限り、ミトコンドリアから常に活性酸素が吐き出されます。内部エントロピーの蓄積です。
食事や喫煙、飲酒などによって外部からもエントロピーが取り込まれます。
これらのエントロピーを排出するのがデトックスということになります。
よく耳にする言葉ですが、デトックスとは具体的には「排泄」だと
考えればいいと思います。
排泄には、便と尿と汗と呼吸があります。
もっとも有毒物質を大量に排泄することができるのが排便です。
実に、体内に溜まった有毒物質の七割以上が大便によって排泄されるといわれています。
デトックスのためには、腸内環境を整え健康な便を出すことが非常に重要になってきます。
尿の量を増やしたりやたくさん汗をかくことは難しいけれど、
よい便を出すようにすることはできます。
便秘症の人も、たかが便秘とあなどることなく、
健康なお通じのために工夫するとよいでしょう。
体内に蓄積して体を老化させ、がんの引き金となるエントロピーを下げるためには、
「健康なお通じ」が第一歩になるのです。