京都からすま和田クリニック 和田洋巳の相談室

がん専門医の和田洋巳が40年近くのがん治療の経験で感じた「がんが住みにくい体づくり」について書いていきます。そのほか興味深いがんの症例やがんを防ぐ基礎知識など。

講座:こころとからだ〜がんは自分が作ったもの〜3

今回は前回の症例の続きをお話します。

紹介した症例の患者さん、大腸癌・多発肝転移で、余命6ヶ月と言われ、私のクリニックに受診に来られました(左図)。
食事指導と、梅エキス・亜麻仁油を摂り、抗癌剤治療を2週に1度受けた結果、4ヶ月後には、転移巣はほぼ消失したことはお話ししましたが、原発巣である大腸には右図のように少し癌が残っていました。

下図は1年後の大腸内視鏡の画像ですが、こちらを見ると癌は消えています。この患者さんは「死ぬまで抗癌剤治療を受けるのは嫌だ!」という意思を持っておられ、肝転移に残る病巣に対する治療も行いました。

結果として、残す治療は癌幹細胞治療のみで、現在その治療を行っていますが、下図のように余命半年といわれた2012年12月末からすでに2年が経過し、病巣がほぼ消失しています。この患者さんは当初余命半年と宣告され、さらに死ぬまで抗癌剤治療が必要と担当医に言われていましたが、”自分で治す”という強い意思を持っていたということによってここまで来たのだと私は思います。

この方のように、心の働きは、治療においては切っても切り離せないものですが、意外と癌治療の現場では軽視されているように思われます。私もこれまでの患者さんとのおつきあいを振り返り、このような心の働きと治療との関係を見直してみることにしました。
次回からはこの心の働きについて、お話していきます。

講座:こころとからだ〜がんは自分が作ったもの〜2

前回、新講座をはじめるにあたり、がんの細胞の特徴についておさらいをしてきました。今回はその続きとして症例紹介になります。

大腸癌・多発肝転移と診断され、余命6ヶ月と言われ、私のクリニックに受診に来られました。


下左の図は、初診時で、どのような治療をしても余命半年に変わりはないと言われていましたが、食事指導と、梅エキス・亜麻仁油を摂り、抗癌剤治療を2週に1度受けた結果、右図の4ヶ月後には、転移巣はほぼ消失し、原発巣である大腸も手術をせずに残っています。


次の図は血液・尿のデータになります。抗癌剤治療を受けると副作用の症状が出る方が多いですが、きちんと身体に合う食事を摂取することで、白血球数の減少もほとんどなく免疫機能の低下を防ぐことができています。
また、大腸癌の腫瘍マーカーである癌胎児性抗原(Carcinoembryonic antigen: CEA)の値も劇的に下がっています。
 これらの結果を生み出した原因として、癌細胞が代謝・成長しにくい状況を作れたことが大きいといえます。癌細胞は、前回お話したように早くエネルギーが欲しいため、エネルギーを得る代償として乳酸を細胞に溜め、それをナトリウムと引き替えに細胞外に吐き出しますが、下の右の図のように塩分を控えめに、野菜をたくさん摂る食事によって、尿中の電解質はナトリウムが減り、カリウムが増え、結果としてpHが上昇しアルカリ性になっています。
 このような状態は血液データや尿データから読み取ることができるので、たとえ診断された結果でも言われたことを鵜呑みにするのではなく、ぜひともみなさまにも参考にしていただきたいと思います。

このように、絶望と思われた状況になってしまったとしても、しっかりと自分の身体と向き合うことで、治癒に向かう可能性は誰しもあります。重要なのは患者さん自身が希望は捨てないこと、そして我々はそのような希望を与えるとともに、いっしょになって希望を後押ししていくことだと私は考えています。

次回も、症例の紹介の続きをしていきます。

講座:こころとからだ〜がんは自分が作ったもの〜1

今回から新講座をはじめていきたいと思います。

これまでは、主にがんと食事の関係について説明をしてきましたが、新講座ではがんと心の関係についても触れていきたいと思います。
最近では、がんに向き合う気持ちの持ち方や、考え方というのは、がんの治療法の選択だけでなく、がんそのものの転移や進行にも影響することがわかってきていますので、私も改めて心の重要性について注目をしています。

まずはおさらいです。

がんとは、自分の身体にできたものです。つまりがんをたたくということは、自分の身体をたたくということになります。
がんを治めるには、がんが棲みにくい身体を作ることが必要です。
がんが棲みにくい身体は適切な食生活・生活と、副作用の少ない治療から作ることができます。

通常、人の細胞、たとえば筋肉は、ミトコンドリアを有しているため、酸素が十分にある状態では、エネルギー源である糖分からたくさんのエネルギー(ATP)を取り出す代謝を行うことができます。
ところががん細胞は特殊な代謝になっていて、酸素が十分にあるときでも、ないときと同じ代謝を行います。酸素が十分に細胞に行き届かないとき(たとえば100メートル走を走るとき)、細胞は糖分から直接エネルギーを取り出しますが、これで得られるエネルギーは非常に少なく、さらに乳酸を生成してしまいます。
乳酸がたまると細胞内が酸性に偏ってしまうため、がんはこの酸をナトリウムと引き換えに吐き出すナトリウムプロトン(水素イオン)ポンプという仕組みも持っています。これらの特徴はがんが周りの細胞へと転移し、増殖していくメカニズムの基本になっています。
つまりがんを治めるには糖分とナトリウムの摂取には気をつけなければいけないことがわかります。

次回は、おさらいの続きで症例を紹介していきます。

講座:医食同源・あぶらの話12

今回で、あぶらの話は最後になります。最後なので少しまとめていきますね。

オメガ3とオメガ6のおさらいです。この二つは1:1で摂ることが重要であり、オメガ3を積極的に摂らないと実現は難しいということでした。
オメガ3は植物油ではシソ(エゴマ)、亜麻、魚なら青魚から多くとることができます。

ちなみにあまり出てこなかったオメガ9ですが、オリーブ油や椿油に含まれるオメガ9は、最近、腫瘍の増殖を抑える可能性が明らかになってきていますので、こちらもある程度は摂取することによる利点がありそうです。

ということでまとめますと、以下のようになります。この講座は、2013年10月19日に開催しました第10回患者会で発表した内容です。

長い期間お付き合いいただきましてありがとうございました。
また近いうちに次の講演の内容をアップしていきますので、今後ともお付き合いいただければ幸いです。

講座:医食同源・あぶらの話11

今回はαリノレンについてご説明していきます。

αリノレン酸は、多くの植物油で見られますが、それぞれ少量しか含んでいないため必要量を摂取することが難しい物質です。下記は概説になります。

αリノレン酸は、一日約2gの摂取が必要ですが、これが少ないと炎症を誘発することになります。

植物油の中でも、下記に示すようにシソ(エゴマ)や亜麻には多くのαリノレン酸が含まれており、これらの摂取は非常に効果的かもしれません。

講座:医食同源・あぶらの話10

今回からは、ここまで何度も出てきている物質であるプロスタグランディンについてのご説明をします。

プロスタグランディンは以下に示すようにたくさんの種類が存在しますが、大きく分けると炎症性と抗炎症性のものに分かれます。

炎症性と抗炎症性のプロスタグランディンをバランス良く生成させようとすると、オメガ3系とオメガ6系の脂肪酸を1:1で摂取する必要があることは前にも書きましたが、オメガ3系であるαリノレン酸系の脂肪酸はなかなか摂取することが難しい脂肪酸です。



ちなみに、プロスタグランディンを生成するための脂肪酸は生体膜から切り出されますが、この阻害剤がステロイドです。つまり体内での過剰な炎症を抑える場合の対症療法としてステロイドが使われるわけです。

ではαリノレン酸はいったいどんな脂肪酸なのか、次回はそこから説明をしていきます。

講座:医食同源・あぶらの話9

今回は、オメガ3とオメガ6のバランスについてのお話です。

同じような言葉が多くて混乱しがちなのですが、リノレン酸はαリノレン酸がオメガ3であるのに対してγリノレン酸はオメガ6であるリノール酸から作られます。オメガ6は比較的摂りやすい脂肪酸ですので、普通に生活していると、リノール酸からγリノレン酸を経てアラキドン酸が過剰に体内で生産されることになります。

このような状況で体内に過剰に不飽和脂肪酸が蓄積されると、不飽和脂肪酸が参加してしまい過酸化脂質というものが多くできてしまいます。過酸化脂質は細胞内でスーパーオキシドアニオンというものを発生させ、それが核内のDNAを損傷させる作用を持つため、数あるがん発生原因のひとつであると考えられています。

このように癌を育てる食べ物というものがあるわけですが、少し整理しますと以下のようになります。

ここまでで何度もプロスタグランディンという言葉が出てきていますが、次回は、このプロスタグランディンについて少し詳しく説明していきます。