京都からすま和田クリニック 和田洋巳の相談室

がん専門医の和田洋巳が40年近くのがん治療の経験で感じた「がんが住みにくい体づくり」について書いていきます。そのほか興味深いがんの症例やがんを防ぐ基礎知識など。

講座:こころとからだ〜がんは自分が作ったもの〜1

今回から新講座をはじめていきたいと思います。

これまでは、主にがんと食事の関係について説明をしてきましたが、新講座ではがんと心の関係についても触れていきたいと思います。
最近では、がんに向き合う気持ちの持ち方や、考え方というのは、がんの治療法の選択だけでなく、がんそのものの転移や進行にも影響することがわかってきていますので、私も改めて心の重要性について注目をしています。

まずはおさらいです。

がんとは、自分の身体にできたものです。つまりがんをたたくということは、自分の身体をたたくということになります。
がんを治めるには、がんが棲みにくい身体を作ることが必要です。
がんが棲みにくい身体は適切な食生活・生活と、副作用の少ない治療から作ることができます。

通常、人の細胞、たとえば筋肉は、ミトコンドリアを有しているため、酸素が十分にある状態では、エネルギー源である糖分からたくさんのエネルギー(ATP)を取り出す代謝を行うことができます。
ところががん細胞は特殊な代謝になっていて、酸素が十分にあるときでも、ないときと同じ代謝を行います。酸素が十分に細胞に行き届かないとき(たとえば100メートル走を走るとき)、細胞は糖分から直接エネルギーを取り出しますが、これで得られるエネルギーは非常に少なく、さらに乳酸を生成してしまいます。
乳酸がたまると細胞内が酸性に偏ってしまうため、がんはこの酸をナトリウムと引き換えに吐き出すナトリウムプロトン(水素イオン)ポンプという仕組みも持っています。これらの特徴はがんが周りの細胞へと転移し、増殖していくメカニズムの基本になっています。
つまりがんを治めるには糖分とナトリウムの摂取には気をつけなければいけないことがわかります。

次回は、おさらいの続きで症例を紹介していきます。

講座:医食同源・あぶらの話12

今回で、あぶらの話は最後になります。最後なので少しまとめていきますね。

オメガ3とオメガ6のおさらいです。この二つは1:1で摂ることが重要であり、オメガ3を積極的に摂らないと実現は難しいということでした。
オメガ3は植物油ではシソ(エゴマ)、亜麻、魚なら青魚から多くとることができます。

ちなみにあまり出てこなかったオメガ9ですが、オリーブ油や椿油に含まれるオメガ9は、最近、腫瘍の増殖を抑える可能性が明らかになってきていますので、こちらもある程度は摂取することによる利点がありそうです。

ということでまとめますと、以下のようになります。この講座は、2013年10月19日に開催しました第10回患者会で発表した内容です。

長い期間お付き合いいただきましてありがとうございました。
また近いうちに次の講演の内容をアップしていきますので、今後ともお付き合いいただければ幸いです。

講座:医食同源・あぶらの話11

今回はαリノレンについてご説明していきます。

αリノレン酸は、多くの植物油で見られますが、それぞれ少量しか含んでいないため必要量を摂取することが難しい物質です。下記は概説になります。

αリノレン酸は、一日約2gの摂取が必要ですが、これが少ないと炎症を誘発することになります。

植物油の中でも、下記に示すようにシソ(エゴマ)や亜麻には多くのαリノレン酸が含まれており、これらの摂取は非常に効果的かもしれません。

講座:医食同源・あぶらの話10

今回からは、ここまで何度も出てきている物質であるプロスタグランディンについてのご説明をします。

プロスタグランディンは以下に示すようにたくさんの種類が存在しますが、大きく分けると炎症性と抗炎症性のものに分かれます。

炎症性と抗炎症性のプロスタグランディンをバランス良く生成させようとすると、オメガ3系とオメガ6系の脂肪酸を1:1で摂取する必要があることは前にも書きましたが、オメガ3系であるαリノレン酸系の脂肪酸はなかなか摂取することが難しい脂肪酸です。



ちなみに、プロスタグランディンを生成するための脂肪酸は生体膜から切り出されますが、この阻害剤がステロイドです。つまり体内での過剰な炎症を抑える場合の対症療法としてステロイドが使われるわけです。

ではαリノレン酸はいったいどんな脂肪酸なのか、次回はそこから説明をしていきます。

講座:医食同源・あぶらの話9

今回は、オメガ3とオメガ6のバランスについてのお話です。

同じような言葉が多くて混乱しがちなのですが、リノレン酸はαリノレン酸がオメガ3であるのに対してγリノレン酸はオメガ6であるリノール酸から作られます。オメガ6は比較的摂りやすい脂肪酸ですので、普通に生活していると、リノール酸からγリノレン酸を経てアラキドン酸が過剰に体内で生産されることになります。

このような状況で体内に過剰に不飽和脂肪酸が蓄積されると、不飽和脂肪酸が参加してしまい過酸化脂質というものが多くできてしまいます。過酸化脂質は細胞内でスーパーオキシドアニオンというものを発生させ、それが核内のDNAを損傷させる作用を持つため、数あるがん発生原因のひとつであると考えられています。

このように癌を育てる食べ物というものがあるわけですが、少し整理しますと以下のようになります。

ここまでで何度もプロスタグランディンという言葉が出てきていますが、次回は、このプロスタグランディンについて少し詳しく説明していきます。

講座:医食同源・あぶらの話8

今回は、牛乳に続いて、トランス脂肪酸という脂肪酸についてご紹介していきます。

トランス脂肪酸、一度は聞いたことがあるかもしれません。
このトランスという言葉は生化学の用語で、不飽和脂肪酸が持つ二重結合の型を表す言葉です。これまでこのブログでも、飽和脂肪酸不飽和脂肪酸の2種類の脂肪酸があることを説明してきましたが、実は不飽和脂肪酸の大きな特徴である二重結合にはトランス型とシス型という2つの型があります。

自然界に存在する不飽和脂肪酸は圧倒的にシス型が多く、折れ曲がった形状をしています。一方で、トランス型は飽和脂肪酸と同じようにある意味強制的に直線的な形状になっています。
シス型の不飽和脂肪酸に水素を添加することで、トランス型の不飽和脂肪酸へと変化しますが、このような加工は、シス型を多く含む植物油などを固形状にして、バターのように使う上で、非常に役立ちます(バターの生産よりもコストが安く済みますよね)。
その一方で、身体への悪影響が数々報告されており、特にLDLコレステロールの増加により心疾患リスクを高めたり、プロスタグランディンの合成を阻害することにより癌を含むさまざまな慢性疾患リスクを高めることもわかっています。



このようなトランス脂肪酸の負の影響を懸念して、海外ではトランス脂肪酸を含む製品の使用を規制する国も増えていますが、上記のように多くの食品にトランス脂肪酸は含まれていますので、みなさんもぜひ脂肪酸の摂取の仕方についてはご注意いただければと思います。

次回は、オメガ3とオメガ6のバランスについてのお話をしていきます。

講座:医食同源・あぶらの話7

今回は、牛乳の癌との関係についてお話します。

牛乳はどうもからだに悪いことも多いようだということは、前回の記事からおわかりいただけたのではないかと思います。



乳癌と牛乳については、ジェーン・プラントの上記の著書が非常に参考になります。

こちらは有名なデータですが、牛乳を含む(ヨーグルトやチーズなどもそうですね)乳製品の消費量が多い国では乳癌発生率が高いとされています。
これは乳癌だけでなく、同じ卵巣癌や前立腺癌なども同様で、女性特有あるいは男性特有の癌との関係性が非常に高いと考えられています。
ではなぜそのようなことが起きるのでしょうか?

実は、乳製品には、乳由来の成長因子であるIGF(インスリン様成長因子)-1というものが含まれており、牛乳は人の母乳に比べ、5-10倍多く含まれています。ちなみにインスリンは良く糖尿病との関連で名前を聞く物質ですが、実は成長ホルモンとも変わらないくらい強い成長作用を持っています。
みなさんに、考えてみて欲しいのは、本来、このような成長因子が必要なのは、成長期のこどもであって、成長期を過ぎた大人はあまり必要としないことは自明の理だということです。

次回は、みなさん聞いたことがあるかもしれませんが、トランス脂肪酸というものについてご説明していきます。